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中近東の建設現場で働いて:建築家として本当に大切なことは?




2006年から2年間程、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイでショッピングモール/ホテル/オフィス/アパートメントを含む大型複合開発プロジェクトに携わっていました。当時はロンドンをベースに活動する大手組織設計事務所に建築家として勤務しており、我々の事務所はこのプロジェクトで設計担当として業務委託を請けていました。当時事務所からは、ドバイに常駐するスタッフが一人と数人のスタッフが入れ替わりで現地に長期出張のかたちで赴き、業務にあたっていたと思います。2006年の段階では、現場の施工も本格的に進んでいて、我々の業務は主に現場での設計監理、施工中のデザイン変更や追加への対応、クライアントやゼネコンら多くの関係者とのやり取りをロンドンとドバイに分かれたプロジェクトチームで担当するかたちをとっていました。


その一環としてまだ30代だった頃の僕は、数か月の間ドバイの現場オフィスに派遣され、その当時急遽クライアントからの要求で変更になったアパートメントの設計変更を、施工が進む中現場の進捗を片目で追いながら設計変更をするという綱渡りを内心ヒヤヒヤしながら担当していました。


スケジュール的に非常に厳しい作業になるので、設計している僕も周りの関係者もピリピリする中での作業が続きました。そんな中、設備関係の施工業者に務めるエジプト人の電気エンジニアとやり取りする機会がありました。中近東で仕事をしていると近隣諸国、アジア諸国、欧米各国と世界中から集まる人間と巡り合う機会があります。中近東諸国の人は、面白いように各国の国民性に特色があり、中でもエジプト人は温厚で朴訥な雰囲気の人が多い印象でした。この電気エンジニアも温厚な印象の人で、プロジェクトの中でもどちらかというと地味で地道な作業を黙々とこなしているような印象の人でした。


そのエンジニアに対し、仕事の中できつい口調で文句を言ったことがありました。まだ若かった僕は、「なめられちゃいけない」とか、「イギリスから来ている建築家としてどちらかと言えばこちらの方が立場が上だ」という意識があったと思います。結果必要以上に激しい口調で、このエジプト人エンジニアに対し罵るような文句を言ったと思います。


それに対して数日後、クライアントを通して非常に厳しいクレームが僕に対して向けられました。このクレームは僕が言った文句に対してというわけではなく、なんとエンジニアの彼の部下の前で僕に文句を言われたことに対する激しいクレームでした。僕はその時全く気にしていなかったのですが、そういえば僕が彼に文句を言っている時、横にそのエジプト人の部下がいました。エンジニアの彼にとっては、文句を言われたことより自分の部下の前で「恥をかかされた」ことの方がよっぽど怒りを覚える行為だったらしく、酷くプライドを傷つけられたと厳しいクレームを僕に向けてきました。


後日彼には謝りにいくことになったのですが、仕事という環境での人付き合いについて色々考えさせられた出来事でした。特に中近東諸国のような国では、様々な国から様々な思いで働きに来ている人がいます。彼らは文化や道徳のバックグラウンドもそれぞれで、個々人の都合や経緯でたまたまひとつの現場に集まり、仕事の場を共有しています。業務の内容も様々で、もらっている報酬もピンキリだと思います。でも一人一人は人間で、自分が生きる為にその場で働こうとしているのです。自分が欧米の国から派遣された建築家だから偉くて、相手がインドから来た日雇い労働者だから偉くないのではないのです。それぞれ人間としての尊厳と人格と独自の道徳を守る権利があり、お互いを認め合う気持ちのもとにはじめて一緒に仕事をする仲間として、「現場」を共有できるのだと思います。


こういう経験は、頭で理解するより現場で体験しないと身になりません。30代の頃貴重な経験を積めたのは後のキャリアを形作る土台になったなと振り返って思います。

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